公開日：2025年6月8日

愛犬が「おもちゃを隠す」のはなぜ？秘蔵の宝物行動に隠された犬の本能と心理

遊び方・トレーニング

愛犬が大好きなおもちゃや大切なおやつを、こっそり毛布の下やソファの隙間に隠そうとする姿を見たことはありませんか？その愛らしいしぐさは、単なる遊び心からくるものかもしれませんし、実は犬が持つ深い本能や心理状態が隠されていることもあります。なぜ愛犬は「宝物」を隠したがるのでしょうか？

この記事では、犬がおもちゃや食べ物を隠す行動の背景にある様々な理由を、その歴史的ルーツから現代の愛犬の心理まで深掘りして解説します。この行動の真意を理解することで、私たちは愛犬との関係性をより豊かにし、彼らが安心して暮らせる環境を整えるためのヒントを見つけることができるでしょう。今日から愛犬の「隠す」しぐさから、彼らの心の声を聞き取ってみましょう。

犬が「物を隠す」行動のルーツ：野生時代の本能と生存戦略

現代の愛犬が物を隠す行動は、彼らの祖先である野生の犬やオオカミが生き残るために培ってきた、古くからの本能的な行動に深く根ざしています。

獲物の貯蔵と保存野生の世界では、いつ獲物にありつけるか分からないため、捕らえた獲物をその場で全て食べきるとは限りませんでした。特に大型の獲物を得た場合、食べきれない分は安全な場所に運び、土に埋めたり、茂みに隠したりして、後で食べるために貯蔵する習性がありました。これは、食料が不足した時に備えるための重要な生存戦略でした。隠すことで、他の捕食者や同族から獲物を守り、腐敗を遅らせる効果もありました。現代の愛犬がフードやおやつを隠すのは、この貯蔵本能の現れであると考えられます。
資源の独占と防衛群れで生活する野生の犬にとって、食料などの資源は非常に貴重です。自分の獲物や大切なものを他の仲間から守るために、隠すという行動は有効な手段でした。見えない場所に隠すことで、争いを避けるとともに、自分の資源を独占しようとする心理が働いていました。家庭犬の場合、多頭飼育の環境や、他のペット、あるいは小さなお子さんがいる場合などに、この「資源を守る」本能が働き、お気に入りのおもちゃやフードを隠すことがあります。
安全な場所への運搬捕らえた獲物を安全な場所まで運び、そこで落ち着いて食べるという行動も、隠すことと関連しています。隠す場所は、愛犬にとって安心できる、自分だけのテリトリーであることが重要です。これは、愛犬が安心できる場所（ケージやベッドの奥など）におもちゃを運び、そこで隠そうとする行動に繋がります。

現代の愛犬が物を隠す心理

本能と個性の融合

野生時代の本能に加え、現代の家庭犬は様々な心理的要因から物を隠すことがあります。愛犬の性格や生活環境が大きく影響します。

安心感の追求とストレス軽減愛犬にとって、大切なおもちゃやブランケットなどを隠すことは、安心感を高める行動となることがあります。特に、慣れない環境に来たばかりの子犬や、引っ越しなどでストレスを感じている犬は、自分の匂いがついた物を隠すことで、安心できる自分だけのスペースを作り出そうとします。これは、不安定な気持ちを落ち着かせ、ストレスを軽減するためのセルフカミング行動の一種とも言えるでしょう。
所有欲と執着心特定のおもちゃやブランケットに対し、非常に強い執着心や所有欲を抱く犬もいます。その物を「自分のもの」として強く認識しているため、他の犬や人間にとられたくないという気持ちから、隠そうとします。これは、特に競争心が強い犬や、過去に物が取り上げられた経験がある犬に見られやすい傾向があります。
退屈とエネルギー不足十分な運動や精神的な刺激が不足している場合、退屈さから物を隠す行動をすることがあります。これは、有り余るエネルギーを発散させたり、自分で遊びを作り出したりする行動の一環として現れることがあります。隠した物を後で自分で見つけて遊ぶという、一種の「探索ゲーム」を楽しんでいる場合もあります。
飼い主さんとの関係性飼い主さんとの関係性も、物を隠す行動に影響を与えることがあります。例えば、飼い主さんが物をすぐに片付けてしまう、あるいは犬が物を咥えていると取り上げようとする、といった経験があると、愛犬は「隠さないと取られてしまう」と学習し、物を隠す行動が強化されることがあります。逆に、隠しているところを飼い主さんに発見してもらって構ってほしい、という甘えの気持ちから隠す犬もいるかもしれません。
単なる遊びの一環純粋に遊びの一環として物を隠す犬もいます。特に子犬や遊び好きな犬種では、物を運び、隠し、そしてまた見つけるという一連の行動自体を楽しんでいることがあります。これは、本能的な探求心を満足させるための行動であり、必ずしもネガティブな意味合いを持つわけではありません。

愛犬が物を隠す行動への適切な対応と注意点

愛犬が物を隠す行動に気づいた時、どのように接すれば良いのでしょうか？その行動の背景にある心理を理解した上で、適切な対応を心がけることが大切です。

隠す場所を尊重するもし愛犬が安心できる場所（自分のベッドやケージなど）に物を隠しているのであれば、基本的にはその行動を尊重してあげましょう。それは愛犬にとって大切な「隠れ家」であり、安心できる場所です。無理に掘り起こしたり、隠した物を取り上げたりすると、愛犬の安心感を損ない、ストレスを与えてしまう可能性があります。
執着しすぎない環境づくり特定の物への過度な執着が見られる場合は、おもちゃの数を増やしたり、定期的にローテーションさせたりすることで、執着を分散させることができます。また、特定の物を取り上げざるを得ない場合は、別の魅力的な物と交換する「物々交換」を促すことで、奪われるという感覚を和らげることができます。
十分な運動と精神的な刺激を与える退屈やエネルギー不足が隠す行動の原因となっている場合は、毎日の散歩時間を増やしたり、ドッグランで思い切り走らせたりして、十分な運動量を確保しましょう。また、知育トイやノーズワーク（嗅覚を使ったゲーム）など、頭を使う遊びを取り入れることで、精神的な満足感も与えられ、不必要な隠す行動が減る可能性があります。
「取られない」という安心感を教えるもし愛犬が物を取られることへの不安から隠しているのであれば、「取られない」という安心感を教えてあげることが重要です。愛犬が物を咥えている時に、無理に取り上げようとせず、「ちょうだい」などの指示で自発的に離す練習をしましょう。離したらすぐに褒めて、ご褒美を与えることで、「渡すと良いことがある」と学習させます。
異常な行動には注意する過度な隠す行動、特に食べ物ではないもの（石、ゴミなど）を隠して食べようとする場合は、異食症や栄養不足、あるいは極度のストレスを示している可能性もあります。また、隠した物を過剰に守ろうとして攻撃的になる場合は、問題が悪化する前に専門家（ドッグトレーナーや獣医行動学者など）に相談することを検討しましょう。