【犬のてんかん完全ガイド】発作のサインと原因、飼い主ができる緊急時の対応と日常生活のケア

「愛犬が突然倒れて、手足が痙攣し始めた…」「泡を吹いて意識がなくなったけど、どうすればいいの?」と、愛犬がてんかん発作を起こす場面に遭遇すると、新米飼い主さんは大きな衝撃を受け、どうしていいか分からなくなることでしょう。てんかんは、犬にとって珍しい病気ではなく、脳の異常な電気活動によって引き起こされる発作性の疾患です。
てんかん発作は、愛犬自身の命に関わるだけでなく、飼い主さんにとっても大きな精神的負担となります。しかし、発作に関する正しい知識を持ち、緊急時の適切な対応、そして日々のケアを理解することで、愛犬の発作をコントロールし、快適な生活を送らせることが可能です。発作を怖がるあまり、適切な対応がとれない事態は避けたいものです。
この記事では、愛犬を飼い始めたばかりの飼い主さん向けに、犬のてんかんについて、発作の種類と具体的な症状、考えられる原因(特発性、症候性など)を解説します。発作が起きてしまった際の飼い主がとるべき冷静な緊急対応、発作記録の重要性、そしててんかんと診断された後の日常生活でのケアや薬との付き合い方について詳しく紹介します。愛犬との安心な毎日を送るために、今日からできることを実践していきましょう。
犬のてんかんとは?発作の種類と具体的なサイン
てんかんは、脳の機能的な問題から突然発作が起こる病気です。発作の現れ方は様々で、飼い主がそのサインを正確に理解することが重要です。
1. てんかん発作のメカニズム
てんかん発作は、脳の神経細胞が異常かつ過剰な電気的興奮を起こすことによって引き起こされます。この興奮が、全身または体の一部に様々な症状として現れます。
2. てんかん発作の種類と症状
てんかん発作は、大きく分けて「全身性発作(大発作)」と「部分性発作(焦点発作)」の2種類があります。
a. 全身性発作(大発作:てんかんの典型的な症状)
脳全体が異常な興奮を起こすことで、全身に症状が現れます。最も一般的なてんかん発作のタイプです。
- 前兆期(発作前兆):
- 発作の数分から数時間前に見られる、愛犬が発作を起こすことを予感させる行動の変化です。
- 落ち着かない、ソワソワする、飼い主にべったりになる、震える、隠れる、視線が定まらない、異常な鳴き声など。
- 発作期(強直間代発作):
- 通常、数秒から数分間(多くは1〜2分以内)続きます。
- 意識の喪失: 急に倒れ、意識がなくなる。呼びかけに反応しない。
- 全身の硬直(強直性痙攣): 手足を突っ張り、全身が硬直する。
- 全身の痙攣(間代性痙攣): 体全体がガクガクと痙攣する。手足をバタバタさせる。
- 口の泡: 口から泡を吹く、よだれが大量に出る。
- 排泄: 尿や便を漏らす。
- 目の動き: 目を閉じている、眼球が左右に速く揺れる(眼振)。
- 発作後症状(発作後症状期):
- 発作が治まった後、数分から数時間、長い場合は数日続くことがあります。
- 意識朦朧: ぼーっとしている、呼びかけに反応が鈍い。
- ふらつき、歩行困難: バランスを崩し、まっすぐ歩けない。
- 一時的な失明: 目が見えないかのように物にぶつかる。
- 多食、多飲: 異常なほど食べたり水を飲んだりする。
- 落ち着かない、不安そう: ソワソワする、部屋をうろつく。
- 攻撃性: 一時的に攻撃的になることもあります。
b. 部分性発作(焦点発作)
脳の一部が異常な興奮を起こすことで、体の一部にのみ症状が現れます。意識が保たれている場合と、部分的または完全に意識が低下する場合があります。
- 運動症状:
- 顔の一部(口元、まぶた)がピクピクと痙攣する。
- 片側の手足だけが痙攣する、突っ張る。
- 宙を見つめる、異常な視線の動き。
- 首や頭が一方に傾く。
- 自律神経症状:
- 大量のよだれ、嘔吐。
- 排尿、排便。
- 体の震え。
- 行動症状(精神運動発作):
- 幻覚を見ているかのように一点を見つめる。
- 空中を噛む(フライバイト)。
- 意味もなく部屋をうろつく、尻尾を追いかける。
- 攻撃的になる、異常に甘える。
これらの症状が見られたら、てんかんの可能性があります。発作の様子を動画に撮っておくと、獣医師の診断に非常に役立ちます。
犬のてんかんの主な原因
犬のてんかんには様々な原因があります。原因によって治療法や予後が異なるため、診断が重要です。
1. 特発性てんかん(真性てんかん、原発性てんかん)
- 最も多いタイプ: てんかんの約70〜80%を占めます。
- 原因不明: 脳の構造的な異常や他の病気がなく、原因が特定できないてんかんです。
- 遺伝的素因: 特定の犬種(ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ボーダーコリー、ビーグル、ジャーマンシェパードなど)に多く見られるため、遺伝的な関与が強く示唆されています。
- 発症時期: 生後6ヶ月から5歳くらいの若い犬で発症することが多いです。
2. 症候性てんかん(二次性てんかん)
- 脳の構造的異常: 脳に原因となる病変(脳腫瘍、脳炎、水頭症、脳梗塞、頭部外傷など)があるてんかんです。
- 発症時期: 若齢から老齢まで、様々な年齢で発症します。
- 治療: 原因となる病気の治療と並行して、てんかんの治療を行います。
3. 構造的てんかん(以前は潜因性てんかんと呼ばれていたものの一部)
- 現在の診断技術では見つけられない微細な脳の構造異常が原因と推測されるてんかんです。
4. 反応性発作(てんかん性発作ではないもの)
- 脳自体に異常があるわけではなく、全身の代謝異常(低血糖、肝不全、腎不全、電解質異常など)や、中毒(誤飲・誤食など)によって一時的に発作のような症状が現れるものです。
- 原因となる病気を治療することで、発作が治まることが多いです。
てんかんの原因を特定するためには、詳細な問診、血液検査、MRIやCTなどの画像診断、脳脊髄液検査などが行われます。
愛犬がてんかん発作を起こしてしまった時の飼い主の対応
愛犬が発作を起こしている時は、慌てずに冷静に対応することが大切です。間違った対応は、愛犬の命を危険にさらすこともあります。
1. まずは冷静になる
- 飼い主がパニックになると、適切な判断ができません。落ち着いて状況を把握しましょう。
2. 愛犬の安全を確保する
- 危険物を取り除く: 周囲に愛犬がぶつかってケガをするような家具や鋭利なものがあれば、すぐに遠ざけましょう。
- 安全な場所に移動: 階段や高い場所、水周りなど、危険な場所であれば、可能であれば安全な平らな場所に移動させます。ただし、無理に抱き上げたりすると飼い主が噛まれるリスクもあるため、難しい場合はそのまま安全確保に努めます。
- 頭部保護: 発作中に頭を打ちつける可能性がある場合は、タオルなどを頭の下にそっと入れて保護してあげましょう。
3. 発作中の注意点
- 口の中に手や物を入れない: 舌を噛むことを心配して口の中に手を入れるのは非常に危険です。愛犬に噛まれて大怪我をするだけでなく、物を詰まらせて窒息させてしまう可能性があります。犬は発作中に舌を噛み切ることはありません。
- 体を強く押さえつけない: 発作中の愛犬を無理に押さえつけると、骨折や脱臼などの怪我をさせてしまうことがあります。
- 名前を呼んだり揺さぶったりしない: 発作中は意識がないため、呼びかけても意味がありません。刺激することで発作が悪化する可能性もあります。
4. 発作の様子を記録する
獣医師の診断に非常に役立つ情報です。可能であれば、スマートフォンで動画を撮影しましょう。
- 発作が始まった日時と時間: 何時何分に始まったか。
- 発作の持続時間: 何分何秒続いたか。タイマーなどで測ると正確です。
- 発作の様子:
- 全身の痙攣か、体の一部だけか。
- 手足の動き(突っ張る、バタバタさせる)。
- 顔の症状(口元のピクつき、よだれ、泡、目の動き)。
- 意識の有無(呼びかけへの反応)。
- 排泄の有無。
- 発作後症状: 発作が治まった後の様子(ふらつき、意識朦朧、多飲多食など)と、それがどのくらい続いたか。
5. 動物病院に連絡する
- 初めての発作の場合: 発作の様子を動画に撮り、すぐに動物病院に連絡し、指示を仰ぎましょう。
- 発作が5分以上続く場合(重積発作): これは非常に危険な状態です。すぐに動物病院に連絡し、緊急搬送が必要となることを伝えて指示を仰ぎましょう。
- 短期間に複数回発作が起こる場合(群発発作): 数時間以内に複数回発作が起こる場合も、危険なサインです。
- 投薬中の発作の場合: 薬を飲んでいるにもかかわらず発作が起こった場合も、必ず獣医師に連絡し、今後の治療について相談しましょう。
てんかんと診断された愛犬との日常生活のケア
てんかんと診断された場合、多くは継続的な治療が必要になります。飼い主の適切なケアが、愛犬の生活の質を向上させます。
1. 獣医師の指示に従った投薬
- 指示通りの服用: てんかんの薬は、獣医師の指示通りに、決められた量と時間に正確に与えることが非常に重要です。自己判断で量を減らしたり、中断したりすると、発作が再発したり悪化したりする危険があります。
- 急な中断は厳禁: 薬を急に中断すると、かえって重篤な発作(重積発作)を引き起こす可能性があります。
- 定期的な血液検査: 薬の血中濃度を測ったり、副作用(肝臓、腎臓への影響など)が出ていないかを確認するために、定期的な血液検査が必要です。
2. 日常生活で気をつけること
- ストレスを避ける: ストレスや興奮が発作の引き金になることがあります。愛犬が落ち着いて過ごせる環境を整え、過度な刺激を避けましょう。
- 規則正しい生活: 食事や散歩の時間を一定にし、生活リズムを整えることが大切です。
- 睡眠時間の確保: 十分な睡眠は脳の健康を保ちます。
- 安全な環境づくり: 発作が起きても安全なように、尖った家具の角を保護する、滑りやすい床にマットを敷くなどの工夫をしましょう。
- トリガーの特定: 何が発作の引き金になっているかを注意深く観察し、可能であればそれを避けるようにしましょう。(例:特定の音、光、運動、特定の時間帯など)
- 発作記録の継続: 投薬を開始した後も、発作が起きたらその日時、持続時間、様子などを記録し、次の診察時に獣医師に報告しましょう。これは薬の調整に役立ちます。
3. 愛犬への愛情と理解
- てんかんは治癒が難しい病気ですが、薬でコントロールし、快適な生活を送れる犬はたくさんいます。
- 愛犬が発作を起こしても、それは彼らのせいではありません。変わらぬ愛情を注ぎ、発作を乗り越えるたびに褒めてあげましょう。
まとめ
てんかんは理解と適切な対応で乗り越えられる
愛犬がてんかん発作を起こすことは、飼い主さんにとって非常に衝撃的で、不安な出来事です。しかし、てんかんは犬にとって珍しい病気ではなく、正しい知識と適切な対応、そして継続的なケアによって、発作をコントロールし、愛犬が快適な生活を送れるようにサポートすることが可能です。
発作が起きてしまった際の冷静な対応、発作の正確な記録、そして獣医師の指示に従った投薬と日々のケアが非常に重要です。もし愛犬がてんかんと診断されたら、一人で抱え込まず、獣医師と密に連携を取りながら、愛犬にとって最善の治療とケアを見つけていきましょう。愛犬のてんかんを理解し、寄り添うことで、飼い主さんとの絆はより一層深まることでしょう。